霧原一輝/日記

日記

■2007年10月28日(日)  Ryuの日記 癸
 我輩は犬である。どこかの猫と違って名前はある。Ryuという名前だ。
 このところ、ご主人様の機嫌がすこぶるいい。
 要因はいろいろある。
 ひとつは、この前、我輩が散歩しているときのことだ。季節外れの台風の影響もあって、叩きつけるような雨のなかを、我輩はご主人様とともにヒィヒィ言いながら散歩していた。
 やつは傘を使っているからいいが、何しろ我輩は傘がさせない。降り続く雨が特製毛皮にしみこんできて、雨を振り払うために胴震いする。
 我輩の胴震いはそれはすごいもので、付いていた水滴が数メートル向こうに弾き飛ばされるほどだ。で、本日数回目の胴震いをしたら、どういうわけかリードのフックが首輪から外れてしまった。
 あまりのすごい胴振るいで、可動部分が振動して開いてしまったのだ。
 これまでにも、数回あったことだ。
 これまでは、我輩が逃走して、やつは大汗をかいていた。
 しかし、今回は我輩はおとなしくやつの後をついていった。そりゃあ、しばらくは隣家の飼い猫である我輩の天敵である「マルちゃん」をからかったりしていたが、それもすぐにやめて、自らマイホームに戻ったのだ。
 それがうれしかったらしくて、ご主人様は「ついに、こいつも俺の軍門にくだったか」とニコニコ顔だ。
 早い話が、これまではやつがすごい形相で追ってくるので、怖くなって逃げていただけなのだが。

 あとは、ワールドシリーズで、レッドソックスのオキドキこと、岡島が大活躍していることがうれしいらしい。やつは、オキドキのファンなのだ。「巨人時代から較べると、ほんと成長した。奥さんもきれいだし」と訳のわからないことを言ってご満悦だ。
 もっとも、中継が朝の9時からなので、このところ、ライフサークルが狂って困っているらしい。我輩としては、ご主人様の傍らで一緒に野球中継を見られるので、悪い気持ちではない。
 やつの投げるボールを、ショートバウンドで口でキャッチするのは、我輩の得意技である。ロッキーズのリトル松井にも負けない自信がある。

 それと、もうひとつ、やつが機嫌がいいのは、自分で「書けて、書けて困る」と豪語するほど、執筆が絶好調らしいのだ。やつが、時々、かつての中畑を真似て「ゼッコーチョー」と、叫んでいるのを見受ける。
「やっぱ、天才なのかな。書き殴ってるわけじゃないぞ。ちゃんと、ほぼ完成形で書けてる。書けすぎて、自分がコワいよ・・むふふ」
 まったくけしからんやつだ。思い上がるにもほどがある。
 こんな傲慢不遜がつづけば、そのうちに痛い目に遇うに決まっている。泣きっ面が我輩には千里眼のごとく見えている。
 まあ、今の反動が出て、しばらく後には、頭を抱えているんだろうけど・・。

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■2007年10月16日(火)  Ryuの日記 癸
 我輩は犬である。どこかの猫と違って、名前はある。Ryuという名前だ。
 不精なご主人様に代わって、日記を書くように言われている。
 今日、主人と散歩していたら、背の低い老人とばったり会った。この猛禽類みたいな雰囲気の老人は、河内さんと言って、近所で犬のブリーダーをしている。
 前々から我輩を見ては「いい犬だ」と褒めてくれるので、気にはしていた。
 その河内さんとうちの主人が何やら話し込んでいる。どうやら、我輩についてのようだ。耳をそばだてていると、「子を取らしてくれるか?」とか「いいですよ」とか「幾らだ?」とか「幾らでもいいですよ」などという会話が聞こえてきた。
(おおぅ! これって、ひょっとして我輩の種付けの話じゃないか!)
 我輩の尻尾は自然にピーンと上を向いた。
「子の引取先が決まったら、頼むよ」という河内さんの声に、うちの主人がうなずくのが見えた。河内さんはうっとりと我輩の勇士を眺めながら、
「いい犬だ。足の踏ん張りもいい・・大事にしてやってよ」
 うれしいことを言って、我輩を振り返りつつ去っていった。
「ふふっ、Ryu、お前、やれるかもしれないぞ。しかし、種付け料って幾らなんだろうな。聞けば良かったよな」
 どうやら、この男は我輩の種付け料をあてにしているらしい。
 親戚のオジさんから、我輩をただで譲り受けたくせに。困ったものだ、まったく。

 ご主人様は相変わらず、仕事ばかりしている。
 今日は、長編を二本、出版社にメールで送ったためか、なんとなく肩の荷がおりたような顔をしている。明日からは、短編と連載小説書いて、その後に書き下ろし長編を書かなくてはいけないらしい。
 やつは、我輩の頭を撫でながら、
「俺がろくに寝ないで仕事してるから、お前は『ゴン太のササミジャーキー』を毎日、七枚も食べられるんだぞ。ありがたく思えよ」
「ろくに寝ないで」というのはウソだ。やつは、いつも昼過ぎまで惰眠を貪っているし、テレビやレンタルビデオだって一日数時間は見ている。
 たしか、昨日、今日で新作DVDを四本、見ているはずだ。我輩も隣で、お行儀良く、伏せをしてテレビを見ていたのだから。
 一本は『蟲師』とかいう奇妙な映画で、やつはこの映画が気に入ったらしく、何回も見直していた。
 ほんとうに切羽詰まっていたら、こういうことはしないだろう。
 まあ、毎日、一時間近く、我輩を散歩に連れていってくれることは、ありがたいとは思っているが。それだって、半分は自分のメタボを解消するためなのだ。

「ああ、くそっ!・・オマ×コしたい!」
 隣の部屋から、ご主人様の突発的な声が聞こえてきた。
 それは、我輩だって同じだ。
(早く、子の取引先が決まらないものか・・)
 我輩は赤くなったおチンチンを、じっと見た。
 石川啄木の心境であった。


2007年10月04日(木) 
「『蜜菓より甘く』の見本が届く」

『蜜菓より甘く』(双葉文庫)の見本が十冊、送られてきた。
 何冊出しても、自分の書いたものが商品となるのを見るのは、心が弾む。
 想像していた通り、金本進さんのイラストがすごい。写真かと見紛うばかりの精密さで「和服姿のいい女」が、落ちついた色気をにじませている。
 カバーだけに使うのは惜しい力作で、一枚絵としても充分通用する。
 帯を外すと、むちむちの女の太腿がまろびでてくる。
(本の帯を外すという行為は、女の服を脱がす行為に似ている)
 和服美人が着物の裾を乱して、むっちりした太腿をのぞかせている。これだけで、三回は抜ける(!)。
 イラストの女性の顔も、作中のヒロイン「香耶」のイメージ通りであるし、実際、本文を読む前に、一発、抜いてしまった(!)。
 
この前、金本進さんが参加なさっていた三人展にうかがわせてもらった。本人はいたって気さくでお茶目な方だが、作風はマジメだ。髪の毛一本はおろか、和服の皺や材質にも絶対に手を抜くことはない。
『蜜菓より甘く』のイラストを見ても、結われた髪の一本、一本から、和服の材質感にいたるまで恥蜜に(違った!)、緻密に表現されていることがわかる。
 性格なんだろうな。絶対に血液型はA型だと思う。

 しかし、十月に同時刊行される双葉官能文庫のこの豪華ラインアップはいったいなんなんだ!
 先月は二冊だったのに、今月は四冊だ。
 しかも、メンバーがすごい。睦月影郎氏、牧村僚氏、橘真児氏という超のつく豪華執筆陣。ここに霧原が入るのか!
 売れるんだろうか? 『蜜菓より甘く』だけ、書店にいつまでも平積みされていたらどうしよう?
 十月九日に取次店に入り、書店に並ぶのは十一日あたりらしい。
(ううむ、不安だ。自分で、数十冊、買い占めるか?)

 いや、そんな場合じゃない。
 来年、刊行予定の書き下ろし長編が二本と、短編が二つ、それに別名で書いているゲームのシナリオを、今年中に書かないと、干される!
 なのに、うちのバカ犬Ryuは、只今「サカリ」の真っ最中で、夜中になると遠吠えして、メスに求愛している。はっきり言って、執筆の邪魔だ。
 やつがこのところ、まったくブログを書いていないのは、サカリがついているせいだ。
 ほら、今もまた遠くから聞こえるパトカーのサイレンに向かって、「オオオゥゥ」と遠吠えしている。バカだ、こいつは。


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